「ゼロトラストとかAI活用とか、キーワードは聞くけど自社の運用にどう落とし込めばいいのか…」——経営層から「最新の脅威トレンドへの対応は大丈夫か?」と問われ、答えに窮した経験はないでしょうか。
2025年のエンドポイントセキュリティは、クラウドベースのセキュリティ、ゼロトラストモデル、AIを活用した脅威検知など、新たな技術とアプローチが次々と登場しています。一方で、IoTデバイスの脆弱性、高度化するランサムウェア攻撃、EDR回避技術の進化など、脅威の側も着実に進化しています。情報収集はしているけれど、自社環境への適用方法がわからない——そんな方も多いのではないでしょうか。
本稿では、2025年のエンドポイントセキュリティにおける10大テーマを、運用担当者の視点で整理しました。「自社では何が足りていないのか」「次に何をすべきか」を考えるヒントとしてお役立てください。
10位 脆弱性管理
「パッチを当てれば終わり」と思っていませんか? 多様なOSやソフトウェアを常に最新状態に保つことが現実的に困難な環境では、脆弱性に焦点を当てたアプローチが注目されています。CVSS v4.0 の導入により、脆弱性評価は技術的な深刻度だけでなくビジネス影響も考慮した包括的なものへと進化しました(PwC解説 )。
組織における脆弱性チェックの頻度も増加傾向にあり、多くの組織が年4回以上の評価を実施しています。一方で、脆弱性ごとに是正方法が異なるため、運用面での負担が増大するという課題も存在します。あるソフトウェアではパッチ適用が解決策となる一方、別のケースではシステム設定変更や代替ソフトウェアへの移行が必要になることもあります。
「CVSSスコアが高いものから順に対応する」だけでは、自社の環境に即したリスク管理とは言えません。是正も含めた脆弱性管理体制の構築が今後ますます重要になってきます。
9位 パスキー(Passkey)の普及
「パスワード管理が煩雑」「フィッシング対策をどこまでやればいいのか」——こうした悩みに対する解の一つが、パスキー認証です。指紋認証や顔認証などの生体認証を活用した新しい認証方式として急速に普及しており、FIDO Allianceの発表 によれば、すでに150億以上のオンラインアカウントがパスキーでのログインに対応しています。
消費者の認知度も着実に上がっています。FIDO Allianceの2024年調査 では、パスキーの認知度は2年間で39%から57%に増加しました。Apple、Google、Microsoftなどの大手テック企業が共同でこの技術を推進しており、iOSやAndroidデバイスの95%以上がパスキーに対応しています。
自社の認証基盤において、パスキー導入のロードマップを検討し始めるタイミングに来ています。
8位 ランサムウェア対策強化
「もし自社でランサムウェア被害が発生したら、どこまで対応できるか?」——この問いに即答できる組織は多くありません。ランサムウェアの脅威は進化を続けています。Zscalerのレポート によれば、AI駆動の攻撃手法の台頭により、音声フィッシング(ヴィッシング)などの高度なソーシャルエンジニアリング攻撃が増加しています。また、データの暗号化だけでなく、データの改ざんや操作といった新たな戦術も登場しています。
効果的なランサムウェア対策にはエンドポイントセキュリティのみに頼った防御策ではなく、多層防御アプローチが不可欠です。端末のパッチ適用やソフトウェア・アップデートなどの衛生管理強化に加えて、ゼロトラストアーキテクチャの採用が有効な手段として挙げられます。「自社の防御は何層あるか」を棚卸しすることが、対策の第一歩です。
7位 モバイルデバイス管理(MDM)
スマートフォンやタブレットの業務利用が当たり前になった今、「会社の端末は管理できているが、BYODや現場のIoT機器まで把握できているか」は重要な問いです。モバイルデバイス管理(MDM)市場は急成長を続けており、IMARC Groupの調査 によれば日本市場も年間成長率24.3%で拡大しています。管理対象はウェアラブルデバイスやIoT機器まで広がり、統合管理が標準となりつつあります。
最新のMDMソリューションはクラウドベースが主流となり、AIと自動化技術の統合により管理効率が向上しています。デバイスの異常検知や自動ポリシー適用機能が強化され、IT管理者の負担軽減にも寄与しています。セキュリティと使いやすさのバランスを重視した設計が進み、ユーザー体験を損なわないセキュリティ対策が実現しつつあります。
6位 クラウドベースのセキュリティ
「オンプレミスのセキュリティ機器を更新するタイミングで、クラウドへの移行を検討すべきか?」——この判断に迫られている組織が増えています。Security Service Edge(SSE)をはじめとして、主要セキュリティ機能のクラウド移行が加速しています。Markets and Marketsの調査 によれば、SSE市場は急成長を続けており、2030年までに100億ドルを超える規模に拡大すると予測されています。
Identity and Access Management(IAM)も重要な要素となっており、多要素認証や最小権限の原則の適用が標準となっています。AIと機械学習を活用した脅威検出と対応も注目されており、リアルタイムで異常を検知して自動対応することで、人間の介入を最小限に抑える方向に進んでいます。
5位 脆弱性トレンドと攻撃手法の進化
「管理対象はPCだけで十分」と考えていませんか? サイバーセキュリティの脅威はPCやサーバーを超え、IoT・OT領域にも広がっています。Forescoutの2025年レポート によれば、IT・IoT・OT・IoMTの各領域でデバイスの脆弱性が急増しており、多くのデバイスが何らかのセキュリティ上の弱点を抱えています。こうした機器は設計時のセキュリティ対策が不十分なまま市場に出回っているケースも多く、企業内でも管理外のIoT機器が多数存在しています。
さらに懸念されるのは「Crime-as-a-Service(CaaS)」の普及です。Europolの報告 によれば、犯罪ツールやサービスをオンラインで簡単に購入できる環境が整いつつあり、技術的知識がなくても高度なサイバー攻撃が可能になっています。攻撃の敷居が下がることで、これまで標的にならなかった企業にもリスクが及んでいます。
4位 ゼロトラストセキュリティモデル
「ゼロトラスト対応はどうなっている?」——経営層からこう問われて、具体的な回答ができるでしょうか。ゼロトラストセキュリティモデルは「決して信頼せず、常に検証する」という原則に基づくアプローチとして定着しつつあります。内部ネットワークも外部と同様に信頼せず、すべてのアクセス要求を継続的に検証するのが基本的な考え方です。
主な要素としては、多要素認証、マイクロセグメンテーション、最小権限の原則、継続的監視が挙げられます。IPAの「ゼロトラスト移行のすゝめ」 でも段階的な移行アプローチが示されていますが、完全なソリューションが一つで存在するわけではなく、複数の技術を組み合わせた実装が必要です。
日本企業においてもゼロトラストへの関心は高まっています。一方で、IIJの調査 が示すように、実際の導入は世界的に見て遅れを取っているのが実情です。実装の複雑さ、専門知識の不足、コストが主な障壁となっています。「いきなり全面導入」ではなく、自社で最もリスクの高い領域から段階的に取り組むことが現実的です。
3位 EDR回避攻撃への対応
「EDRを入れているから大丈夫」——その安心感は危険かもしれません。EDR(エンドポイント検知・対応)システムを回避する攻撃手法が進化しています。たとえばCymulateが報告した「Blindside」 と呼ばれる技術では、ハードウェアブレークポイントを利用してEDRの監視を回避し、任意のコードを実行することが可能です。
他にも、パスマスカレーディング、API hooking回避、プロセスインジェクション、リフレクティブDLLインジェクションなどの技術が使われています。特に低権限アクセスでもEDRを回避できる手法が新たに発見されており、「EDRさえあれば安全」という前提は見直す必要があります。
これらの脅威に対応するには、多層防御アプローチが不可欠です。行動分析の強化、脅威インテリジェンスの統合、エンドポイントの堅牢化、継続的な監視と脅威ハンティング、そして定期的なアップデートが重要です。マネージドディテクション&レスポンス(MDR)サービスの活用も、限られた人員で高度な脅威に対応するための現実的な選択肢です。
2位 Windows 11のCPUサポート制限と影響
「うちのPCは何割がWindows 11に対応しているのか?」——この数字を即答できない組織は、早急に棚卸しが必要です。Windows 11のCPUサポート制限により、Intel第11世代以降のCPUが必要となり、2018年以前に製造されたPCの多くが公式サポート対象外となりました。
Windows 10のサポートは2025年10月に終了 しました。非対応PCを継続利用する場合は拡張セキュリティ更新プログラム(ESU) を利用する選択肢もありますが、あくまで時間稼ぎの措置であり、ハードウェア更新計画との併用が前提です。
セキュリティリスクとハードウェア更新コストのバランスを取るという難しい判断を迫られていますが、放置すればリスクは増大する一方です。IT資産管理の棚卸しと長期的な更新戦略の策定が急務となっています。
1位 ジェネレーティブAIによる脅威検知
「AIでセキュリティ対策を効率化する」——言葉としては聞くものの、具体的に何ができるのかイメージしづらいという声は少なくありません。ジェネレーティブAIは、サイバーセキュリティの脅威検知に大きな変革をもたらしています。従来の脅威検知ツールが事前定義されたルールやシグネチャに依存していたのに対し、ジェネレーティブAIは膨大なデータセットを分析し、人間が見逃しがちなパターンを識別することで、攻撃の予兆を検知することが可能になりました。
Cloud Security Alliance(CSA)の報告 によれば、AIを活用したセキュリティプラットフォームはインシデントの検知時間を大幅に短縮し、対応の迅速化に貢献しています。組織は反応的なセキュリティ対策から、予測的な脅威ハンティングへと移行できるようになりつつあります。
さらに、ジェネレーティブAIはハニーポットやデコイシステムの精度を高め、攻撃者の戦術に関する貴重なデータを収集することにも活用されています。ただし、AIは万能ではなく、導入にあたっては自社の運用体制に合った活用方法を見極めることが重要です。
まとめ
2025年のエンドポイントセキュリティは、技術と脅威の両面でかつてないスピードで変化しています。本稿で取り上げた10のテーマすべてに一度に対応するのは現実的ではありません。重要なのは、自社の現状を把握し、優先順位をつけて取り組むことです。
経営層への報告や予算確保の場面では、以下のポイントが説明材料になります。
資産の可視化 : Windows 11非対応PCの割合、管理外IoTデバイスの有無など、まず現状の数字を把握する
防御の多層化 : EDR単体ではなく、脆弱性管理・ゼロトラスト・クラウドセキュリティを組み合わせた多層防御の必要性
脅威の変化 : AI駆動の攻撃、EDR回避技術、CaaSの普及など、攻撃側の進化に対応する体制整備
まずは「自社のエンドポイントの全体像を正確に把握できているか」を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。現状の棚卸しができれば、次に取り組むべきテーマが自ずと見えてきます。自社だけで判断が難しい場合は、エンドポイントセキュリティの専門家に相談することも有効な選択肢です。