「サイバーハイジーンが重要だ」ということは理解している。しかし現実には、パッチ適用率の集計やレポート作成に毎月何時間もの手作業が発生し、Tanium専任担当1〜2名のチームでは手が回らない——。本記事では、「全自動」という幻想にとらわれず、大企業が段階的にサイバーハイジーン運用を自動化していくための3つのステップを解説します。
目次
- 「サイバーハイジーンは大事」は分かっている。でも、手が回らない
- 手作業依存のサイバーハイジーンが限界を迎える3つの理由
- 「全自動」は幻想 — 段階的自動化という考え方
- 大企業が実践すべき3つの自動化ステップ
- 自動化がもたらす変化 — 「火消し」から「未然の対応」へ
- まとめ — 最初の一歩は「現状の棚卸し」から
「サイバーハイジーンは大事」は分かっている。でも、手が回らない
「サイバーハイジーンをやらなければ」——経営層からそう言われているセキュリティ担当者は多いのではないでしょうか。
タニウムの調査によれば、従業員5万人以上の大企業では約半数がサイバーハイジーンを全社規模で実施しています。「やっている」企業は確実に増えています。
しかし、その裏側で起きている現実はどうでしょうか。
多くの企業が、Taniumを有効活用する体制が整わない状態で導入・運用を開始しています。Taniumを導入した結果、これまで見えていなかった大量の問題が可視化される。パッチ未適用の端末、非管理端末、設定の不整合……。しかし、それに対応するのはTanium専任1〜2名のチーム。しかも他のセキュリティツールの運用も兼務しています。
毎月のパッチ適用率レポートの作成だけで丸一日が潰れる。非管理端末の調査に半日。残りの時間で日々のアラート対応——。「やること」は分かっているのに「回し方」が分からない。これは特定の企業だけの問題ではなく、多くの企業に共通する課題です。

グローバルでは約480万人のサイバーセキュリティ人材が不足しているとされ(ISC2 2025年調査)、「人を増やせばいい」は現実的な解決策ではありません。今ある体制で、いかに効率的に回すかを考える必要があるのです。
手作業依存のサイバーハイジーンが限界を迎える3つの理由
「今のところ手作業で何とか回っている」——そう感じている方もいるかもしれません。しかし、手作業依存の運用にはいくつかの構造的な限界があります。

理由1: 属人化リスク — 「あの人しかできない」が運用を止める
手作業での運用は、属人化と表裏一体です。手順が整備されておらず、どういう設定がされていてどう動いているのかが担当者以外わからない。「あの人しかできない作業」が存在する限り、その人が異動・退職した瞬間に運用は止まります。
手順書があったとしても、手作業には暗黙知が多く含まれます。「この場合はこうする」「このパターンは例外」——こうした判断がドキュメント化されていないケースが大半です。
理由2: スケールしない — 端末は増えても人は増えない
管理対象の端末は、リモートワークの定着や海外拠点の拡大に伴い増え続けています。1.5万台を手作業で管理できていたとしても、3万台になったときに同じ方法では破綻します。しかし、セキュリティチームの増員は簡単ではありません。
結果として、その場しのぎの対応が繰り返されることになります。問題が起きたら対処し、次の問題が起きたらまた対処する——。根本的な改善に着手する時間はいつまでたっても生まれません。
理由3: 対応速度の限界 — ランサムウェアは待ってくれない
脆弱性が公開されてからパッチ適用が完了するまでの時間が、手作業ではどうしても長くなります。2025年上半期だけで国内で116件のランサムウェア被害が報告されており(警察庁)、大企業だけでも35件に上ります。攻撃者は脆弱性が公開された直後から悪用を試みます。
「何とか回っている」のではなく、「たまたま大事故が起きていないだけ」かもしれない。そう考えると、手作業依存からの脱却は急務です。
「全自動」は幻想 — 段階的自動化という考え方
自動化が必要だとわかっても、「いきなり全部自動化するのは無理」と感じるのは当然です。実際、全自動は現実的ではありません。
自動化とは、体系立てて整理されたものをプレイブックとして回す仕組みです。まず運用を整備し、定型化された繰り返し業務のうち手間がかかる部分を効率化できないか検討する——。この順序が重要です。
CIS Controlsでは「Implementation Groups(IG1→IG2→IG3)」として、セキュリティ対策の成熟度を段階的に上げていくフレームワークが定義されています。サイバーハイジーンの自動化も同じ発想で進めるべきです。

大企業が取り組むべき自動化の優先順位は、以下の3段階です。
- レポート・ダッシュボードの自動生成 — まずは手作業でレポートを作っていた部分を自動化する
- 定型業務の自動化 — パッチ適用やアプリケーション更新など、繰り返し発生する定型業務を仕組み化する
- 判断が必要な業務は人が担う — インシデント対応など、その場の判断が必要な業務は自動化の対象外と割り切る
各段階で「手作業をどれだけ減らせたか」を定量的に把握することが、次のステップに進む判断材料になります。
大企業が実践すべき3つの自動化ステップ
ステップ1: レポート・ダッシュボードの自動生成
最も効果を実感しやすい自動化の第一歩は、レポートやダッシュボードの自動生成です。
毎月手作業で集計しているパッチ適用率、非管理端末数、脆弱性対応状況。これらをTaniumのダッシュボード機能やレポート機能で自動生成し、関係者に自動送付する仕組みに切り替えます。
これだけで、月に数時間〜丸一日かかっていたレポート作成作業が不要になります。経営層が「今うちは大丈夫か?」と聞いたときに、リアルタイムのデータで即答できる状態を作れます。

副次的な効果もあります。可視化が進むと「悪い数字」も見えるようになりますが、ダッシュボードでトレンド(改善推移)を見せることで、「先月より○ポイント改善しました」と前向きな報告に変えることができます。
ステップ2: 定型業務の自動化
レポートの自動化で手作業が減ったら、次は定期的かつ定型化された業務の自動化に取り組みます。具体的には、パッチ配信のスケジューリング、特定アプリケーションの更新、設定ドリフトの検出と是正などです。
ここでTanium Automateの活用が視野に入ります。Tanium Automateはノーコード/ローコードでプレイブックを作成でき、IT・セキュリティのワークフローをエンドポイントレベルで自動化できます。
ただし、重要な前提があります。自動化ツールは「体系立てて整理されたものを回してくれるプレイブック」であり、何でも最適に自動実行してくれる魔法の杖ではありません。まずは運用を整備し、手順を文書化した上で、繰り返し発生して手間がかかる部分を自動化していく——この順序を守ることが成功の鍵です。

また、自動化の実現には組織の理解も不可欠です。「こういった基準で、こういった対処が自動的に行われる」ということを、運用者・利用者・経営者が許容する必要があります。
実は、自動化を妨げる最大の要因は技術的な問題ではありません。「人が確認して承認を得ないと何もできない」という、過去の運用を引きずった承認プロセスです。自動化に取り組む際は、業務プロセスそのものの見直しもセットで進めることが、成功への近道です。
ステップ3: 判断が必要な業務は人が担う
3つ目のステップは「自動化しない領域を明確にする」ことです。
インシデント対応のように、その場その場の判断が必要になる業務は自動化が困難です。ゼロデイ脆弱性への緊急対応、未知のマルウェアの調査、影響範囲の判断——これらは人間の専門知識と経験が不可欠な領域です。

大切なのは、「自動化できるもの」と「人が判断すべきもの」の線引きを明確にすることです。この線引きができていれば、チームメンバーは「自分が本当に集中すべき業務」が明確になり、限られたリソースを最も効果的に使えるようになります。
自動化がもたらす変化 — 「火消し」から「未然の対応」へ
自動化の目的は、いままでできなかったことに取り組む余裕を作ることです。
「今は火消しばかりで、攻めのセキュリティなんて考える余裕がない」——多くの担当者がそう感じています。しかし、火消しに見えている業務の中にも、効率化できる部分は必ずあります。
レポート作成を自動化すれば、その時間で脆弱性の分析ができます。パッチ配信を自動化すれば、未適用端末への個別対応に使っていた時間で、次の四半期のセキュリティ戦略を考えられます。

効率化ができれば、「火消し」から「火が出る前の未然の対応」ができるようになります。未然の対応ができるようになれば、さらにできることが増えて、エンドポイントの衛生管理状態はどんどん良くなっていきます。
攻めと守りは完全に切り離されたものではなく、連続しています。自動化によって守りの効率を上げることが、そのまま攻めのセキュリティへの第一歩になるのです。
自動化は「人を減らす」ためではなく「人を活かす」ために行うもの。チームの役割は「オペレーター(作業者)」から「オーケストレーター(指揮者)」へと進化していきます。
まとめ — 最初の一歩は「現状の棚卸し」から
サイバーハイジーン運用の自動化は、一度にすべてを実現するものではありません。レポートの自動生成 → 定型業務の自動化 → 判断業務は人が担う、この3ステップで段階的に進めていくことが大切です。
では、明日からまず何をすればいいのか。
いまやっている運用業務を棚卸ししてください。
- どの業務に、どれくらいの時間がかかっているのか
- それは繰り返し発生するものか、一回限りのものか
- 手順は整備されているか、属人化していないか

この棚卸しリストが、そのまま自動化のロードマップになります。繰り返し発生して手間がかかる業務から、手順を整備し、システム化・自動化できないかを検討していきましょう。
また、忘れてはならないのが既存プロセスの見直しです。自動化を阻む最大の要因は、技術ではなく「人が確認して承認しないと何も進まない」という旧来のプロセスにあることが少なくありません。自動化に耐えうる業務プロセスへの変更も、成功の秘訣です。
「どこから手をつけていいかわからない」——そう感じたら、サイバーハイジーンの専門家に相談するのも有効な一手です。現状を整理し、最適なロードマップを一緒に描くことで、自動化への道筋が明確になります。
